ここ最近は世界中で気候変動も顕著になり、地球環境の維持や改善というテーマを身近に感じることも多くなりました。そうした風潮の中でよく耳にする言葉が、「サステナビリティ」です。
いったい、サステナビリティとはどんな意味があり、ワイン製造にどんな影響を与えているのでしょうか。
今日はイタリアワインにおけるサステナビリティの取り組みについて紹介します。
20世紀後半から提唱されていた「持続可能な開発」
サステナビリティは、日本語では「持続可能な開発」と訳されます。
近年急に耳にすることが多くなったこの言葉は、実は20世紀後半、1987年に「環境と開発に関する世界委員会」が公表した「Our Common Future」によって取り上げられた概念でした。(※1)
その後、ヨハネスブルク・サミットなどを経て、現在のサステナビリティは、限りある地球資源を次世代に損なうことなくバトンタッチすることが主な目的とされています。(※2)
世界各国がこの持続可能な開発を行うために具体的に何を目標にしているのかは、農林水産省のサイトで詳しく見ることができます。(※3)
イタリアのワイン製造におけるサステナビリティ
農業王国であり、ワインの生産量では世界一を誇るイタリアでは、早い段階からサステナビリティを意識したフォーラムなどが開催されてきました。
西洋の文化を語る上でワインは欠かせないものです。
地球の資源と環境を次世代にバトンタッチするとともに、数世紀を超えて伝えられてきたワインの伝統も、正しく次の世代に受け継いでもらう必要性を感じるワイン業者が非常に多かったのがその理由でした。
2015年の段階ですでに、技術面における研究者と1000以上におよぶワイナリーの所有主たちが、サステナビリティと経済的なバランスを模索するプロジェクトが発信されていました。(※4)
またイタリア政府も、サステナビリティの概念によって製造されたワインについては、国内外の販売において付加価値をつける方向でその動きを後押しし続けてきたのです。
そもそもイタリア半島は、地中海式気候に恵まれているため、サステナビリティによってぶどう栽培を行うにあたってもかなりの利点があることはまちがいありません。気候や土壌に恵まれていれば、人工的な栽培工程は最低限で済ませることができるからです。
また2012年には、オーガニックという概念がEU内で明文化されたため、オーガニックワインの生産と消費に大きな拍車がかかります。これもまた、サステナビリティのワインのための大きな一助となったのです。(※5)
恵まれた気候条件や土壌の豊かさをもう一度見直し、リサイクルの流れを強化し、ワインの質は落とさないまま余分な工程を省くという試みが、南イタリアや高名なワインの産地でまず始まっていきました。
サステナビリティ・ワイン、具体的な取り組みとは?
それでは、サステナビリティのワインを作るためにはどのような取り組みが実施されているのでしょうか。
具体的には、こんなことが実践されています。
・化学肥料によって疲弊した土壌を回復させるためのバイオダイナミック農法の導入
・機械や化学肥料の使用を減らし、動物や自然の力でぶどう栽培の質の向上を図る
サステナブルなワインの基準については、これまでかなりあいまいな部分もありました。
2022年3月、ようやくイタリアの農林政策省は具体的な基準を発表、ぶどう栽培に使用する水量やワイン醸造に従事する人々の労働環境など細かな点を明確にしました。
今後は、この基準をクリアしたワインには「SQNPI(統合生産国家品質システムの略称)」を名乗ることができるようになりました。(※6)
イタリアにおけるサステナビリティ・ワインの普及
イタリアには大小合わせて38万を超えるワイナリーがあります。
サステナビリティのワインという概念がイタリア人のあいだで普及していった背景には、まず地元産の食材を直接製造者から購入する青空市場をイタリア人が特に好むという風習がありました。(※7)
「地産地消」を愛する人が多いのがイタリア。
日常的に飲むワインもブランド力よりは地元志向が強く、訪れた青空市場でオーガニックワインやサステナビリティをうたったワインを目にすれば、買ってみようかとなることが多いのが実情なのです。
なぜならイタリアにおけるワインは嗜好品ではなく、ほぼ必需品の部類に入るからです。ブランド力の高いワインではなく、地元産の安価で美味しいワインを地元の食材と口にする習慣が、中小規模のワイナリーを支えているといえるかもしれません。
自国の食に絶対の自負を抱くイタリア人は、多少高くなっても品質に問題がなければ、オーガニックやサステナビリティを意識したワインを選ぶ人が大半。
こうした意識が徐々に広がり、レストランでも地元産のサステナビリティワインを提供するところが増えてきたというのが実情なのです。
サステナビリティにおける課題も
ワインにおけるサステナビリティを語るならば、これまでは廃棄物とされてきたもののリサイクルがあげられます。
ぶどうの栽培工程で捨てられてきた選定後の枝、醸造工程で出たぶどうの搾りかす。この2つの再利用が、急ピッチで進んできました。
たとえば選定後のぶどうの枝は、バイオマス燃料に生まれ変わり、コスト削減に貢献しています。
またぶどうの搾りかすはチーズの熟成に使用されたり、ヴィーガンレザーに加工されるという技術も開発されました。
このエコなレザーは、高級車や世界的なファッションブランドにも導入され、大いに注目されています。
一方、課題もあります。
ワインの美味しさはやはり、ガラスの瓶に詰めるのがベストということは変わらないため、その重さから輸送にかかるコストの削減がままならない点です。
缶に詰めたワインの生産も一部では始まっていますが、まだまだ普及するに至っていません。
サステナビリティを意識したワインは、今後もさまざまな技術の開発と私たちの意識によって向上していくカテゴリーなのです。
現代人としてのワインの楽しみ方
食文化のひとつとして、世界中で愛されているワイン。
その美味しさを未来の世代に伝えるためには、私たちも現代人としての意識をもってワインをたしなむ時代に突入しています。
美味しいワインを作るためには、健全な環境がなければ成り立ちません。
消費活動においても、こうした現在の地球の環境に思いを馳せながらワインを楽しんでみたいものですね。
(cucciola)
(引用元)
※1.外務省「持続可能な開発」
※2.集英社「情報・知識imidas(持続可能な開発)」
※3.農林水産省「SDGs(持続可能な開発目標)17の目標と169のターゲット」
※4.GAMBERO ROSSO「La Sostenibilità Ambientale del Vino verso nuovi sviluppi」
※5.Gazzetta Ufficiale(官報)「DECRETO 12 luglio 2012 」
※6.イタリア農林政策省庁「Sostenibilita`」
※7.La repubblica「La vendita diretta conquista gli italiani: numeri da record nel primo semestre del 2021」