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仏の牡蠣の名産地・カンカルの生産者も唸る広島のグリーン・オイスターを喰らう

美食の都・パリのホリデイシーズンを彩る贅沢な魚介類の主役、牡蠣

美食家の人の中でも、貝類に目がない人は、英語の綴りに「R」がつく月になると、気持ちがそわそわするのではないだろうか。「Rマンス」と言われる、スペルにRが含まれる月は、貝類の中でもスター級の貝である牡蠣の身が充実してくる時期だからだ。

美食の都パリでは11月を過ぎて年末年始のホリデイシーズンになると、大切な人たちと食卓を囲むことが多くなる。そんなときはちょっと贅沢な魚介類を購入するのがお決まりだ。オマール海老やラングスティーヌといった海老や蟹などの甲殻類、そしてなんといっても、誰もが楽しみにしているのが牡蠣だ。

フランスには牡蠣の名産地がいくつかあるが、なかでも有名なのがブルターニュ地方のカンカルという街。湾を挟んだ向かい側にはモン・サン・ミッシェルが見える風光明媚な土地でもある。

カンカルで採れる牡蠣は品質が高いことで知られ、海沿いの街では有史以前から食されてきたという長い歴史があったが、パリのような都市部では貴族の間でも高級品として取り扱われてきた。ルイ14世をはじめとする時の君主にも好まれ、ルイ14世は朝から食事の前に6ダースもの牡蠣を平らげたというから驚きだ。

今でもパリでは冬になると、牡蠣をメインに魚介を楽しむ「フリュイ・ド・メール」などをビストロで楽しむのは定番中の定番であり、冬の魚介の王様とも言える存在が牡蠣なのだ。

絶滅の危機に瀕していたカンカルの牡蠣

かつてカンカルで育てられていた牡蠣は「ブロン」と呼ばれる丸い牡蠣で、日本では「ヒラガキ」と呼ばれる品種だった。濃厚で複雑な味わいが特徴で、フランスで一番おいしいと言われていた。

しかし、20世紀に入ってから伝染病が流行ったことで、2度にわたり絶滅の危機に瀕している。最初はポルトガルから稚貝を取り寄せ、養殖を始めるものの、1970年代にも再び伝染病が流行。壊滅的な打撃を受けたのだ。

そんなときに救いの手を差し伸べたのは、なんと日本の牡蠣養殖業者。広島や三陸の養殖業者は、日本で育てられている真牡蠣の稚貝を送った。

すると、ポルトガルのものより伝染病に対する抵抗力が強かったため、真牡蠣を中心に育てられるようになったのだ。この助け合いは2011年に三陸の牡蠣が被害を受けた際、カンカルから日本に牡蠣の養殖に使う器具が送られるというエピソードも生んでいる。

今では同業者同士情報交換をしながら、切磋琢磨が行われている。

カンカルの牡蠣生産者も唸る「グリーンオイスター」とは?

フランスで一番おいしいと言われていた「ブロン」が絶滅に瀕した現在、フランスでも真牡蠣がポピュラーになる中で、注目したいのが、「グリーン・オイスター」だ。フランスのボルドー地方にあるマレンヌ・オレロン島のみで生産されている希少な牡蠣で、海で養殖をしてから塩田跡の池で牡蠣をアフィナージュ(熟成)する。そうすることで、芳醇でまろやかな味わいの牡蠣に仕上がるのだ。

塩田跡の池は夏になると水温が高くなるため、牡蠣は水温の低い海で育てられる。大西洋の豊富なプランクトンを食べ、牡蠣はしっかりと身を太らせていく。池の水温が落ち着いたら、かごに入った牡蠣を海から引き上げ、塩田跡の池に沈め、アフィナージュする。当然のことだが、海と池では生息しているプランクトンの種類が違う。そのため牡蠣の口の部分がエメラルドグリーンを帯びるのだ。

この色が美しいことから、フランス語では「Fine de Claire Verte(フィーヌ・ド・クレール・ヴェルテ)」、英語では「グリーン・オイスター」と呼ばれている。

現在このように育てられる牡蠣は、フランスでも極上の逸品とされ、牡蠣の有名産地でもあるカンカルの生産者も唸る複雑な味わいを持つ。

そしてこの方法で牡蠣を養殖している企業が、日本にも存在するのだ。

日本で極上の牡蠣を食べたいなら、広島の大崎上島へ行け

陸上の池で熟成させるという珍しい養殖方法を行う牡蠣生産者が日本にも1社だけ存在する。「ファームスズキ」という広島県・大崎上島にある企業だ。塩田跡の池で熟成させた牡蠣を、ファームスズキでは「クレールオイスター」と名付け、販売している。生産量は広島県全体の牡蠣の生産量のわずか0.3%しかない。クレールオイスターは通信販売でも購入できるが、急速冷凍されたものになる。

しかし、生で食べる方法がひとつある。大崎上島にあるファームスズキが経営するレストラン「ファームスズキOYSTER HOUSE」に行く。ただそれだけでいいのだ。

ファームスズキOYSTER HOUSEは塩田跡の池の養殖施設に隣接しているため、鮮度も抜群のクレールオイスターを味わうことができる。

くさみのない潮の香りと複雑な味わいを日本酒やワインとともに楽しむことができ、しかも生産者直売でもあるため、破格の値段で味わうことができる。

言わずと知れた牡蠣の名産地である広島まで足を運び、牡蠣を楽しむのならば、ファームスズキのクレールオイスターを海で採れる真牡蠣と比較しないのはもったいないと言えるだろう。

これからが牡蠣のシーズン本番。ぜひグリーン・オイスターにトライしたいものだ。

(井出玲子)

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