古代への回帰?イタリア半島を席巻中の「アンフォラワイン」とは
ワイン生産量世界一を誇るイタリア。(※1)
古代からの歴史を誇るイタリア半島のワイン、その文化は現在進行形です。日進月歩の新技術を駆使した新銘柄が次々と誕生し、ワインファンを喜ばせてくれるのです。
そのイタリアで近年話題となっているのが、アンフォラワインです。
アンフォラとは、古代ギリシア時代にワインの貯蔵や運搬のために使った壺のこと。ワインだけではなく、オリーブオイルや食材の運搬にも使用されていたといわれています。(※2)
木製やステンレス製の樽ではなく、あえてアンフォラに入れて熟成させるワインには、いったいどんな魅力があるのでしょうか。
今日はアンフォラで作られるワインの真髄に迫ってみたいと思います。
※1.ワインレポート「2021年世界のワイン生産量、ヨーロッパ異常気象で記録的な低水準に」
※2.平凡社世界大百科事典「アンフォラ」
掘れば出てくる古代の遺物、それがアンフォラ!
イタリア半島は、どこを掘っても古代の遺跡や遺物が出土する土地柄。
そうした出土品のなかでも数多く見られるのが、本日の主役であるアンフォラです。
ユネスコの世界遺産に認定されたポンペイをはじめ、イタリア国内の地下を掘れば必ずといってよいほどお目にかかれるアンフォラ。それは古代の人々にとって、液体の輸送や貯蔵のための生活必需品でした。
ジョージアから火がついた!アンフォラワインのブーム
アンフォラワインのそもそもの発端は、黒海沿岸の小国ジョージア(旧名グルジア)に綿々と伝えられてきたクヴェヴリ(qvevri)という壺にあります。
陶製のクヴェヴリを使用し生産したワインは、そのまま壺の中で熟成され、市場に出ていたわけですが、その生産量は微々たるものでした。
2013年、ちょうど日本の和食と年を同じくして、このジョージアのアンフォラワインの製法もユネスコの無形文化遺産に認定されました。これをきっかけに、イタリア半島でもアンフォラワインが注目され、ブームがスタートしたのです。
古代ギリシア人によって南イタリアにもたらされ、技術力を有していたエトルリア人たちによってイタリア半島全土に普及したアンフォラ。アンフォラワインの人気は、そうした古代の遺物に対する感傷的な懐古だけではありません。(※3)
現代科学の研究によれば、アンフォラで生産されるワインは近代に開発された醸造技術とは異なるものの、独特の味わいを醸し出す要素が含まれていることが証明されたのです。(※4)
※3.Il Giornale del civo「VINO IN ANFORA:
イタリア中に広まったアンフォラワイン、そのメリットとは
木製の樽を使用するのが通常のワイン、そのワインをアンフォラで熟成させるメリットはどんな点でしょうか。
まず、陶製のアンフォラは木樽同様、粘土という自然の素材で作られているため、ワインに微量の酸素やミネラルを供給してくれることがあげられます。こうした要素が、ワインをより自然でまろやかな味わいにしてくれるというわけです。
またその製造過程において、アンフォラは土中に埋められます。そしてそのまま熟成させるという工程を経るため、通年で安定した気温と環境を保ちつつ醸造が可能、という点も美味しいワインを作り出す理由になっているそうです。
人工的な攪拌を必要とせず、自然な形で熟成していくことが、アンフォラワインの最大の特徴といえるかもしれません。(※5)
この製造方法が、20世紀から21世紀にかけてイタリアでブームになったよりナチュラルなワインを求める風潮に合致し、アンフォラワインのブームに拍車をかけました。
オーガニックワインのひとつとして、古代の製法を伝えるアンフォラワインが脚光を浴びることになったのです。(※3)
※3.Il Giornale del civo「VINO IN ANFORA: QUALI SONO LE CARATTERISTICHE E I VANTAGGI?」
※5.Il Meglio in Cantina「Le anfore: custodi di passato e futuro」
イタリア半島を網羅したアンフォラワイン、今後の展望は?
イタリアにおけるアンフォラワインの魅力を喧伝したのは、北イタリアのフリウリ地方で活躍する名醸造家ヨスコ・グラヴネルでした。
その後、モンテファルコやトレンティーノなど、高名なワインを生み出す土地にもアンフォラによる製法が流布し、現在はシチリア島などイタリア南部にまで広がっています。また、ポルトガルや南米でも、アンフォラによるワインの醸造が飛び火する現象が見られます。(※6)
人類の歴史と共に歩んできたワインの文化。
人々はそこに、ドラマチックな物語を求めるのかもしれません。
アンフォラによって熟成されたワインに、壮大な古代のロマンを夢見るのではないでしょうか。
イタリアでのアンフォラワインの製造者のあいだでは、醸造法の改良だけではなく、アンフォラの素材にまでこだわるなど、独自の味わいを追求する動きも活発です。(※7)
古代のワインの再生ともいえるアンフォラワイン、今後はどんな発展を遂げるのか、ワイン好きは目が離せません。
※6.ENOTECA online「世界のワインメーカーが注目する「アンフォラ」の魅力」
※7.ANSA「Vino: Pagani de Marchi,2022 di cambiamenti da anfora a blend」
(cucciola)