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2021.08.20

廃棄パンをビールに!ドイツ人の倹約精神が食品ロスを救う!

近年日本でも取り上げられている「食品ロス」。日本では年間2,531万トンあまりの食品が廃棄され、そのうちまだ食べられるのに捨てられてしまう食品ロスは年間約600万トンと報告されています。

ヨーロッパの大国ドイツでも食品廃棄・食品ロスの問題は深刻で、ドイツで廃棄処分される食品は毎年約1,100万トンにも上っています。その内のおよそ15%、約170トンと大きな割合を占めているのが、ドイツ人の主食「パン」です。ドイツのパンは約3,200もの豊富な種類を誇り、2014年にはユネスコの無形文化遺産に指定されるなど、その美味しさはまさに折り紙付き。でも現実に目を向けると、5個に1個のパンは食されることなく廃棄され、結果として不要な温室効果ガスを246万トンも排出してしまっているのです。

そんな廃棄パンを救い食品ロスを減らすため、ドイツらしい取り組みが始まりました。そう、ドイツの国民食「パン」をドイツの国民飲料「ビール」に生まれ変わらせるのです。

始まりは紀元前、ストローで飲む「ブレッドビア」

しかし、パンをビールに生まれ変わらせることなどできるのでしょうか?それが、できるんです。

パンからビールを作るというアイディアは実はとても古いもので、その起源は今からおよそ5,000年前、紀元前3,000年頃に栄えたメソポタミア文明までさかのぼります。

メソポタミア文明は、チグリス川・ユーフラテス川流域(現在のイラク北部)にシュメール人が築いた世界最古の文明です。遺跡から発掘された出土品の解析が進み、シュメール人にとってビールはとても身近な飲み物で、王様から一般庶民まで幅広い人々に好まれていたことがわかりました。そして、このメソポタミアのビール作りに使われたのが、「バッピル」と呼ばれるパンだったのです。

バッピルは大麦もしくは小麦から作られた、平たいパンだったと言われています。シュメール人はこのバッピルを細かく砕き、大麦を発芽させた麦芽(モルト)と混ぜ合わせ、「ブレッドビア(パンのビール)」を作りました。

ビール醸造は女性の仕事です。古代メソポタミアのビールの女神「ニンカシ」を崇める女性聖職者や、一般家庭では主婦の手によって作られていました。

シュメール人はこのブレッドビアをろ過することなく大きなかめから直接飲んだのですが、麦の粒やバッピルのかすなど固形物がたくさん含まれていて、とても飲みにくかったそうです。そこで彼ら思い付いたのが、麦や葦(あし)の茎で出来た長いストローを使うこと。このストローをかめに差して上澄みを吸えば、固形物の混じらないビールを楽しむことができたのです。これがストローの誕生です。そしてお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、麦わら(straw)を使って飲んだため「ストロー(straw)」と呼ばれるようになりました。メソポタミアの遺跡から出土された粘土板には、かめに長いストローを差し入れてビールを飲むシュメール人の画がたくさん描かれています。ストローは「ブレッドビアを飲みたい!」というシュメール人の飽くなき欲望から生まれた発明品だったのです。

パンは捨てずに、ビールにするべし

さて、話を現代に戻しましょう。

ドイツ人の主食「パン」を食品ロスから救うため、ドイツ初の「廃棄パンから作ったビール」がドイツ・フランクフルトで誕生したのは、2018年のことでした。廃棄パンを提供するのはフランクフルト近郊のオーガニックベーカリー。小さな白パン、バゲット、全粒粉パンなどいろいろな種類を試しましたが、今ではそれら全てを混ぜ合わせて使っています。売れ残ったパンは乾燥され、小さく切り刻まれ、一定量が集まるまでベーカリーで保管します。60kgに達すると別の街にあるオーガニックビール醸造所に運ばれ、ビール醸造過程でモルト(麦芽)の一部として混ぜ合わされます。混ぜる量は試行錯誤して割り出し、モルトの4分の1をパンで代用することに行き着きました。

ビール小瓶1本に含まれるパンの量は18〜19g、ちょうどパン1切れ分です。こうして誕生したこのブレッドビアは「Knarzje」(クナーツィア/ aはaウムラウト)と名付けられました。クナーツィアとは「パンの切れ端」を意味するドイツ・ヘッセン地方の方言。その名が示す通り、捨てられるはずだった1切れの「クナーツィア」が1本の「Knarzje」に生まれ変わったのです。

食品ロスを減らすこの取り組みはドイツ国内で大きな注目を集め、「Knarzje」はグリーン・プロダクト・アワードなど数々の賞を受賞しました

でもここで、1つの疑問があります。ドイツにはパンとビール両方の、長い歴史と豊かな文化があります。なのに何故、「売れ残ったパンでビールを作る」というアイディアが長年実現されなかったのでしょうか。

伝統の「ビール純粋令」か、サステイナビリティか

古代メソポタミア文明に誕生したブレッドビア。実は今でも、エジプトやロシアなどにはパンを原料とするビールが普通に存在しています。その上、イギリス、オーストリア、スイス、ベルギーなどのヨーロッパ諸国では、廃棄パンをビールに活用する取り組みが既に行われていました。そんな中でもドイツにパンから作るビールが存在しなかったのは、以前お伝えしたドイツ伝統のビール法「ビール純粋令」が関係しているようです。

前に詳しく説明しましたが、ここでもう一度おさらいしましょう。「ビール純粋令」ではドイツビールに使用する原料を、「下面発酵ビールには大麦麦芽(モルト)、ホップ、酵母、水だけ、上面発酵ビールには例外的に小麦麦芽、糖分を使用できる」と厳しく定めています。

ラガー系の下面発酵ビールは原料が4つに限定されているため、パンを使うことはまず不可能です。エール系の上面発酵ビールなら例外的な原料使用が認められていますが、「パン」を使用できるとは明記されていません。

そこで「Knarzje」サイドは行動に出ました。政府の関係機関に直接何度も掛け合って、ビール醸造の特別許可を取り付けたのです。「Knarzje」のラベルを見ると、「水、大麦麦芽、乾燥パン(スペルト小麦、小麦、全粒粉を含む)、ホップ、酵母」を原料にしていると記載されています。パンを使うことにより食品ロス削減を実現しながら、それ以外の原料は「ビール純粋令」の定めをしっかりと守るという、ドイツ人の倹約精神と几帳面さがこのビールには詰まっているのです。

まだ食べられるパンを捨てるなんてもったいない!そう考えるのはドイツ人も日本人も同じです。最近では長野県野沢温泉の「AJBブルワリー」や石川県の「金沢ブルワリー」など、日本でも廃棄パンからビールを作る動きがじわりと広がってきました。まだ食べられる食品を無駄にしないで、新しい食品に生かす。廃棄パンから作るビールは、新しいスタンダードになるかもしれません。

(米澤さとこ)

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