高級時計ブランドといえばロレックス。そう考える人がほとんどかもしれません。ロレックスは誰もがその名を知る世界的に有名なブランドで、入手困難モデルもたくさんあります。しかしこのロレックス、実は「世界三大時計ブランド」に含まれていない、という事実をご存知でしょうか?
世界三大時計ブランドとは、パテックフィリップ、オーデマピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンのこと。聞いたこともないブランド名かもしれませんが、どれも高価なだけではなく長い歴史と卓越した技術を誇り、時計愛好家の間で「雲上ブランド」と呼ばれるほどの最高級時計ブランドです。そんな「知る人ぞ知る」世界三大時計ブランドをご紹介させていただきます。
ロレックスは世界三大時計ブランドではない、その理由とは?
しかしなぜ、ロレックスは世界三大時計ブランドに入らないのでしょう?その理由には諸説ありますが、ブランドの歴史と方向性が大きく関与していると言われています。
・「老舗」か「新興」か
まず、歴史について紐解いてみましょう。ロレックスの創業は1905年。ドイツ人のハンス・ウイルスドルフが「ウイルスドルフ&デイビス」という時計製造販売会社をイギリス・ロンドンに設立したのが始まりでした。「ロレックス=スイス時計」というイメージですが、ドイツ人がイギリスにおこした会社が始まりだったとは驚きではないでしょうか。スイス・ジュネーブに移転したのは1919年のことでした。
一方、パテックフィリップは1839年、オーデマピゲは1875年、ヴァシュロン・コンスタンタンは1755年に創業し、それ以来ずっと時計の本場スイスで、何百年にも渡り時計を作り続けてきました。この三大ブランドはいずれも、当時主流だった懐中時計に始まる伝統を受け継いでいます。対するロレックスは創業当初から腕時計に注力する、いわば新鋭ブランドでした。このように、歴史・伝統ともに、三大ブランドには豊かさと重みがあるのです。
・「実用性」か「希少性」か
次に、ブランドの方向性です。ロレックスは創業以来「精度・防水性・自動巻きの確実な巻上げ」の3つを目標に掲げてきました。つまり、日常使用にも耐えうる頑丈さと正確な時を告げる信頼性を持ち合わせたツールウォッチが基本です。一部を除けば、複雑な機構を搭載することも、高級な装飾が施されることもありません。幾多のスポーツや探検で使われてきたように、ロレックスは常に堅牢で使い勝手のいい時計を目指してきたのです。
その一方、三大ブランドは伝統や高度な技術に裏打ちされた高級品を手がけてきました。それをよく表しているのが「ジュネーブシール」でしょう。ジュネーブシールは、スイス・ジュネーブ州内で作られる機械式ムーブメントのみを対象にした厳格な認証で、認定されるには精度のみならずムーブメントの素材・仕上げ・装飾など、芸術性も含めた12の基準を満たさなければなりません。パテックフィリップとヴァシュロン・コンスタンタンがこの非常に厳しい規定をクリアしているのは驚きでもないでしょう。
時計産業発祥の地、スイスのヴォー州ジュウ渓谷に本拠地を置くオーデマピゲも複雑で美しい時計を世に送り出し、究極のクラフトマンシップを守り続けています。また、ロレックスの時計は近未来的な巨大工場で大量生産されますが、三大ブランドはその製造工程のほとんどがいまだに伝統的な手作業です。年間生産総数も、ロレックスの約80万本に対してパテックフィリップは約6万2,000本、オーデマピゲは約4万本、ヴァシュロン・コンスタンタンは約1万8,000本しかありません。こんな側面からも、三大ブランドの時計は希少価値が高く格が違うことがお分かりいただけると思います。
ロレックス:https://www.rolex.com/ja
パテックフィリップ:追随を許さない究極の品質と安心の技術
そんな世界三大時計ブランドのトップとも言えるのが、「世界最高の時計を設計し、製作する」という社是を守り続けるパテックフィリップです。トップと言える所以は、その卓越した技術力にあります。パテックフィリップは、全ての機械式ムーブメントにジュネーブシール認定を受けた唯一のブランドです。2009年からはジュネーブシール以上に厳しい独自の規格「パテックフィリップ・シール」を規定し、準拠し続けてきました。
パテックフィリップ・シールはムーブメントのみならずケース、文字盤、針、ブレスレット、バックルなど全ての部品を対象とするため、時計に関するどの規格より認定基準が厳しくなっています。高い技術力とノウハウがあるからこそ、これほどまで厳格な規格を自らに課すことができるのです。
また、時計ブランドにしては珍しく「永久修理」を掲げており、パテックフィリップの時計であればどの年代のものでも一生アフターサービスを受けることができます。裏を返して言えば、新旧全てのモデルを熟知し、同社の伝統や歴史も深く理解した専門の時計技師を擁しているということです。時計に精通したスペシャリストが世代を超えて時計をケアしてくれるという安心感は、パテックフィリップの時計に大きな付加価値を与えています。
同社がここまでケアするのは、世代から世代へ時計を受け継ぐことはパテックフィリップの伝統も受け継ぐことだと考えているから。時計にも顧客にも敬意を払う姿勢に、さすが最高峰のブランド、と感じずにはいられません。
パテックフィリップ:https://www.patek.com/ja/ホーム
オーデマピゲ:創業一族が守り続ける伝統と革新なデザイン
オーデマピゲは1875年の創業以来、スイス・ジュウ渓谷にあるル・ブラッシュという小さな村で時計製造を続けてきました。三大ブランドの中で唯一他社の資本介入を受けておらず、現在も創業者一族による家族経営が続いています。
「一度も途切れていない」「一度も買収されていない」という背景から、「縁起の良いブランド」として経営者に好んで選ばれています。同社は複雑な機構を精巧に作り出すことに定評があり、1892年にはミニッツリピーター、1921年にはジャンピングアワー、1986年には自動巻きトゥールビヨンなど、さまざまな機構を搭載した世界初の腕時計を開発してきました。「伝統と革新の調和」というブランドコンセプトのもと、前衛的なデザインを手がけることでも知られています。中でも、1972年に発表した「ロイヤルオーク」はその代表格と言えるでしょう。
この時計のデザイン、実は一晩にして誕生したという逸話があります。デザインを一任されたのは世界的に有名な時計デザイナー、ジェラルド・ジェンタでした。彼のもとに依頼の電話があったのは、ある日の午後4時のこと。でも納期は次の日の朝でした。ジェラルドは夜通しでデザインを考え、潜水用ヘルメットの正面に付いているガラス窓をモチーフにすることを思いついたのです。こうして8角形のケースにむき出しの8本ネジという斬新なデザインが一夜にして完成しました。
オーデマピゲは更に、「オーデマピゲ財団」を立ち上げて環境問題にも取り組んでいます。お膝元のジュウ渓谷のみならず世界中の森林保護活動を支援し、地球の未来に貢献しています。
オーデマピゲ:https://www.audemarspiguet.com/com/ja/home.html
ヴァシュロン・コンスタンタン:「唯一無二」に挑戦し続ける最古の時計メーカー
三大ブランドの中で1番古い歴史を誇るのが、1755年に創業したヴァシュロン・コンスタンタンです。1755年は日本でいうと江戸時代後期、徳川家重が9代目将軍の座についていた時代です。創業者のジャン=マルク・ヴァシュロンが24歳という若さで開いたた小さな時計工房がブランドの始まりです。その孫のジャック・バルテルミー・ヴァシュロンが商人のフランソワ・コンスタンタンと手を組んだことから「ヴァシュロン・コンスタンタン」が誕生しました。
ブランドのモットーである「できる限り最善を尽くす、そう試みることは少なくとも可能である」は、フランソワがジャック・バルテルミーに宛てた手紙の1フレーズでした。このモットーに従い、他社が真似できない複雑な時計に次々と挑戦してきました。その頂点とも言えるのが、2015年に創業260年を記念して発表された「リファレンス57260」でしょう。
これは57もの機構を組み合わせた今まで製作した中で最も複雑な時計で、着想に8年を費やした最高傑作です。ヴァシュロン・コンスタンタンの時計には複雑さのみならず優美さを追求したものも多く、その細かく美しい装飾から芸術品に例えられることもあります。細部まで手の込んだ繊細で贅沢な時計は上流階級の目に留まり、ヨーロッパのみならずエジプトやインドの王侯貴族からも特別注文が舞い込んだと言います。こうした世界に1つだけの高貴な時計を手がけられるのも、約3世紀にも渡る技術と伝統があるからではないでしょうか。
ヴァシュロン・コンスタンタン:https://www.vacheron-constantin.com/jp/home.html
まとめ
長い歴史を誇る世界三大時計ブランドの時計は、いつの時代も人々を魅了してきました。最先端のスマートウォッチもいいですが、本物の大人ならTPOを考えた時計選びも大切です。
世界中の男性が憧れる「究極の逸品」を身につければ、最高のステータスの証になることは間違いないでしょう。「一生もの」以上の価値のある三大ブランドの時計は、まさにそんな時計なのかもしれません。
(米澤さとこ)