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フランス・ロワールのシェーブルとソーヴィニヨン・ブランのマリアージュ

シェーブルは春の食材の代名詞

筍や山菜、新キャベツにそら豆、新じゃが。春から夏への芽吹きの季節を迎え、旬の食材が食卓を彩る季節だ。季節の移り変わりを告げる食材は野菜だけに限ったことではない。フランスでは山羊乳から作られるチーズ「シェーブル」が春から夏に旬を迎え、街のマルシェやフロマジュリー(チーズ専門店)の店先を賑わすようになる。シェーブルはフランス人にとって、春の食材の代名詞でもあり、長い冬を超え、待ちわびるもののひとつだ。

シェーブルの故郷・ロワール地方

シェーブルが作られているのは、「フランスの庭園」と呼ばれるロワール地方だ。ロワール川沿いに、いくつもの古城と森、そしてぶどう畑が広がっている風光明媚な地域だ。ロワール川中流域の周辺は、穏やかな気候に恵まれ、古くからヤギの牧畜が行われている。搾りたてのミルクを使い、チーズも盛んに作られ、さまざまなタイプのシェーブルが生まれている。ロワールで作られるシェーブルが、春から夏の食材になるのには理由がある。ヤギは冬から春にかけて出産シーズンを迎えるが、春の一番草を食べて子ヤギを育てる。芽吹いたばかりの一番草は栄養が豊富で、咲き乱れる花やハーブの一番草をたっぷり食べたヤギは、栄養いっぱいのミルクをたっぷり出すのだ。新緑に染まる山は栄養たっぷりの牧草を母ヤギに与え、そのミルクで生まれるのがシェーブルだ。

バラエティ豊かなシェーブルの魅力

シェーブルは、「農家の数だけシェーブルがある」と言われるほどバラエティが豊かだ。さわやかな酸味が楽しめるフレッシュタイプから、濃厚なコクが感じられる熟成タイプまで、チーズの見た目も、ピラミッド型や丸太型、灰をまぶしたもの、葉でくるんだものなどと、非常に多種多様なのが特徴だ。軽やかな酸味と、山羊乳独特のクセがあり、「チーズ好きが最後に行き着く味」とも言われるが、フレッシュなものは比較的クセがなく食べやすいため、初心者向きとも言える。熟成したものはマッシュルームのような香りと、栗のようなホクホクとした食感で、現地の人たちに親しまれている。シェーブルは、春のフルーツやパンと合わせるだけでなく、サラダやサンドウィッチにしたり、キッシュに入れたりと、味わい方もさまざまだ。

フランス人が待ちわびる、心躍る組み合わせ

見た目も味わいも多様なシェーブルと、圧倒的な相性 をみせるのが、同じロワール川上流域で造られるソーヴィニヨン・ブランだ。なかでもサンセールは、フランスのソーヴィニヨン・ブランにとって随一の銘醸地といわれ、シャブリに似た石灰質の土壌を持つことでも知られる。その土壌から生まれるのは、フレッシュな青草や、グレープフルーツのようなアロマをもち、火打ち石と表現される、ミネラル感をたたえたワインだ。初夏のシェーブルと、ソーヴィニヨン・ブランの組み合わせは、ロワールならではの心躍る楽しみ方でもある。

ソーヴィニヨン・ブランの銘醸地・サンセール

サンセールは非常に古くからワインを造っていることで知られる産地だ。6世紀頃の文献に記されているほどの長い歴史を誇り、12世紀頃には「王国一のワイン」とまで言われていた。しかし、この頃に造っていたのは赤ワイン。ソーヴィニヨン・ブランが造られるようになったのは19世紀のことだ。フィロキセラという病害虫でぶどう畑が壊滅的なダメージを受けた際、病害虫に強いといわれるソーヴィニヨン・ブランを、それまでの赤ワイン用品種に代えて植え付けたのだという。そして現在までの 短い時間で、ソーヴィニヨン・ブランの銘醸地と言われるまでに成長し、その名を世界中で知られるまでになったのだ。

極上のワインを生む石灰質土壌

そんなサンセールの中で、極上のワインを生むと言われているのが、「シェーヌ・マルシャン」と「モン・ダネ」という畑だ。シェーヌ・マルシャンは、「カイヨット」と呼ばれる小石の多い石灰質の畑から生まれ、サンセールのなかでもより一層ミネラル感を楽しめるワインが造られる。もう一方のモン・ダネは、シャブリでもよく知られる「キンメリジャン」という石灰質土壌で、豊富なミネラル感とフレッシュな酸味を楽しむことが出来る。

唯一無二の個性を生み出す「コタ一族」

サンセールの極上の畑を所有する生産者の中でも、偉大 な生産者として知られるのが「コタ一族」だ。相続をめぐるトラブルで「フランソワ・コタ」と「パスカル・コタ」に分裂したが、現在でも著名なワイン評論家たちが賛辞を惜しまないワインを造り続けている。フランソワ・コタでは、人為的な介入を極力しない伝統的な栽培方法をとり、ぶどうは遅摘みの手収穫 、昔ながらの機械でソフ トに圧搾した果汁 を、 酒石がびっしりついた大樽で発酵させるという、クラシックなワイン造りを行っている。自然の力を借り、テロワールをていねいに写し取ったワインは、豊かなアロマとなめらかなテクスチャーを持つ。

フランスに春を告げる、シェーブルとソーヴィニヨン・ブラン。日本人が筍や山菜で春を感じ取るように、フランス人が心待ちにする春の味覚の組み合わせだ。風薫る季節、せっかくなら窓を開けて、テラスにワインクーラーを用意 しよう。若葉の香りがする風を感じながら、よく冷えたサンセールとシェーブルを味わえば、初夏の最上の時間を過ごせること間違いなしだ。

(井出玲子)

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